「太平洋の防波堤/愛人 ラマン/悲しみよ こんにちは」感想
2008 / 04 / 05 ( Sat )
「太平洋の防波堤」「愛人 ラマン」 どちらもデュラスの代表作だが、この2作は続けて読むことに意義がある。「太平洋の防波堤」はデュラスが36歳に書いたもので、まだ若く、こなれていないながらも魅力的な物語。そしてゴングール賞を受賞した「愛人」は、万華鏡のような精緻なテクニックが魅力的であり、作家の円熟度がうかがえる。2作続けて読むと、いかにデュラスが作家として生きたか、わかるような気がする。 「太平洋の防波堤」は、インドシナで政府の払い下げ地を買ったはいいが、作物の取れない土地でだまされてしまった母親、その息子のジョセフ、娘のシュザンヌの3人が主人公。この家族像はデュラスの家族がモデルであることは間違いない。デュラスの母親も払い下げ地を買って失敗しているし、デュラスの愛した次兄はジョセフのモデルだろう。母親は楽園を求めてインドシナにやってきたのに、そこはとんでもない地獄であり、その夢についてきた子供2人は、この現状に倦んでいる。2人はそれぞれの方法で母親から離れようとし、結果バラバラになっていく。「愛人」でも母親という存在はデュラスにとって大きいらしく、どちらの作品も母親からの逃避願望があり、男性を愛することによって、または処女を失うことで母親に復讐しようとする。だが、そんな母親を誰よりも愛し、家族そのものだということは、巻末の母親とデュラスの写真からも伺えると私は思う。 「悲しみよこんにちは」 18歳の早熟で頭のいい女の子がこれを書いた、そしてこの印象的なタイトル。これが揃ったというのがどれだけ世間に衝撃を与えたかわかる。主人公セシルのある夏のひとときを書いた小説だが、発表された当時は「いかがわしい小説」とも言われたそうだ。今読んでもなかなか刺激的ではある。 セシルには母親がいない。だが母親の代わりのような女性がいる。そしてその女性が父親の妻、つまりセシルの母親になろうとするとき、彼女は悪魔的な知恵をめぐらせる。女であり、少女であり、娘であるセシルの微妙な心理を、18歳のサガンはあざといまでの早熟なテクニックで描いている。サガンがもしもう少し年をとって書いていたら、もっと小説のテクニックはあがったかもしれないが、この小説のもつ輝きは無かっただろう。絶妙のタイミングでこれだけの小説を書けたことが、サガンの天分だったのだと思う。 |
「太平洋の防波堤/愛人 ラマン/悲しみよ こんにちは」その4
2008 / 03 / 29 ( Sat )
「悲しみよ こんにちは」読了しました。 映画で見てるので、大体の話はわかってましたが、さすがベストセラーというか面白かったです。センシティブな少女の心の動きというか、純粋さと残酷さが同居している部分がとてもよかった。だけど、「愛人」の後に読むと、ちょっと落ちるなあという気もしました。どっちもそれぞれに良いところがあるとは思うんですけどね。まあ「愛人」はデュラスが年を経てから書いた作品だし、比べてはいけないですけど。 |
「太平洋の防波堤/愛人 ラマン/悲しみよ こんにちは」その3
2008 / 03 / 24 ( Mon )
「愛人 ラマン」読了しました。 「太平洋の防波堤」から続けて読むと、感慨深いものがあります。 「太平洋〜」は、随筆というか、つれづれるがままに…って感じで風景を淡々と描いていますが、「愛人」は、情景をコラージュしたような印象を受けます。時系列も前後してるし、短いながらも小説的な面白さは「愛人」が圧倒的だと私は思います。 ですが、「愛人」まで昇華されていない「太平洋〜」も、また魅力的です。この2つを続けて読めるというのが、この全集の狙いなんだろうか。だとしたら、納得です。
ところで、「愛人」には「狩人の夜」という言葉が出てきます。 これは訳注にもありますが、アメリカ映画「狩人の夜」(原題 The Night of the Hunter)からの引用で、幼い兄妹が恐ろしい殺人鬼に追われる物語です。訳注によると、直接的には「暗殺者」として問題のある上の兄を、間接的には映画でも暗喩されている「母からの逃走」という欲望が表されているそうです。なるほど〜。 映画は1955年に名優チャールズ・ロートンとジェームズ・エイジーにより映画化されましたが、日本では公開されず。本国でも興行成績が悪かったそうで、ロートンとエイジーにとって最初で最後の監督・脚本作品となってしまったことから「呪われた映画」と呼ばれてたそうです。私はリバイバル上映で幸運にも映画館で見ましたが、ものすごく印象的でした。ロバート・ミッチャムの狂気、リリアン・ギッシュの可憐なおばあちゃん姿、死体が水の中の中でゆらゆらと揺らめく映像は、モノクロの分恐ろしさと美しさが倍増…。 ですが、テレビでもう一度見た時はあまり感動しなかった。もしかして映画館向きの映画なのかもしれません。 当時の映画チラシを見つけたので、この映画の呪われっぷりを紹介。 1.公開当時の評判はトリュフォーの評価を例外として最悪 2.テキサスやテネシーでは公開禁止 3.不評のためロートンは二度と監督できず 4.脚本家エイジーは酒の飲み過ぎと絶望から1年後に死亡 5.プロデューサーのポール・グレゴリーもこの映画を最後に消える 6.作曲家のウォルター・シューマンにとって最後の映画作品となる 7.後年「スパイ大作戦」で知られる父親役のピーター・グレイヴスも映画から消える 8.原作者も消える(後述) しかし現在では歴代ベスト映画に3位に入ってたり(イギリスの雑誌Time Out1989年)、スティーヴン・キングが自選の名作映画100選の1本にあげてたりとメジャーになって日の目を見たのでした。めでたしめでたし? 原作はディヴィス・クラップ。1919年アメリカウェスト・ヴァージニア州生まれ。あまり知られてない作家ですが、多分日本で翻訳されているのはこれ1冊だけ。アメリカでも「狩人の夜」1作で有名だそうです。サイコサスペンスのはしりと言われています。 翻訳本は創元推理文庫で出てます(たしか宮部みゆきのプッシュがあっての発売だったはず)。私が持ってるのはトパーズプレス社版ですが、翻訳は同じ方なので大差ないかもです。 |
「太平洋の防波堤/愛人 ラマン/悲しみよ こんにちは」その2
2008 / 03 / 21 ( Fri )
「太平洋の防波堤」読了しました。 思ったよりずっと面白かった。全集に収録されてなかったら一生読むことはなかったかもしれないので、こういう機会があったのは良かったと思います。 でも、この小説の感想ってとても書きにくいなあ。とくにこれといった強烈なエピソードもないし、淡々としてるから…。でもそこが面白いんですけど。 デュラスの家族への思慕も入ってるだろうし、政治的な考えもあれば、女としての自立といったテーマもある。なんとゆーかプリズムのように様々な光を放つ小説といえるかなあ。 感想は三作まとめて書くつもりです。次は「愛人」だっ! |
「太平洋の防波堤/愛人 ラマン/悲しみよ こんにちは」その1
2008 / 03 / 15 ( Sat )
世界文学全集第4巻「太平洋の防波堤/愛人 ラマン/悲しみよ こんにちは」が届きました。 ものすごく厚い!解説含めると600Pもあるじゃないですか!!まあ3作入ってるから…。で中を開いてみると、「太平洋の防波堤」が半分以上(337pまで)。「悲しみよ〜」「愛人」は文庫本でも薄い方だったなあと思い出しました。 さっそく「太平洋の防波堤」を読み始めました。フランス領インドシナが舞台になってます。主人公の家族は植民地インドシナで役人から土地を買い生活を立てようとしますが、その土地は高潮が毎年きて植物を育てられる土地ではありませんでした…ってとこから始まります。 しかし、植民地でそーとーあくどいことしてたんですね、フランスの役人は。 1.役人は農作物を育てられない土地と知りながら売る ↓ 2.とーぜん作物はとれないので、買い手は収入なし ↓ 3.耕作化されてないといって、役人は土地をとりあえる ↓ 1にもどる もし訴えられても、役人なんで異動があったりするから「前任者のことは知らない」だし、耕作可能な土地を買った人からはがっぽりワイロを頂く。本国から遠いのもあってやりたい放題じゃないですか。自国民ですらこの扱いだったのだから、元々住んでいた人たちの扱いは…ひどかっただろうな〜。 この文学全集は小説によって近代史をたどるという側面もありますね。色々考えさせられます。 |






















