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「犯罪」フェルディナント・フォン・シーラッハ

海外翻訳小説
08 /03 2011
犯罪
フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄 進一
4488013368


 話題の新刊です。犯罪についての一風変わった小説というのも興味があって読んでみました。作者はドイツで弁護士をしており、この本の物語も実際の事件を元にしているそうです。さすが話題になるだけあって面白かったです。
 装丁が古めかしいので昔の話かと思いましたが現代のドイツの話です。移民による犯罪など昨今の社会問題も多く取り上げられています。また、古いドイツ社会の名残ともいえる貴族、上流階級の犯罪もあり幅広い階層の人間ドラマにもなっています。

 しかし、作者が弁護士であり事実を基にした作品と聞くと、ついどこまで本当なのか、事実はどのあたりなのか気になってしまいます。真実の物語には迫力がもちろんありますが、事実をより上回る物語性はちょっと薄いかもしれません。これだけのネタがあるのなら、小説としてもっと深く掘り下げられそうだと思ってしまいます。ですが、そこをさらっと書いているのがこの小説の贅沢なところでもあるし、余計なことを書かないことで読後の余韻が残ります。翻訳本をあまり読まない方にもスイスイ読めると思います。

 作者フェルディナント・フォン・シーラッハは、ナチ党の全国青少年指導者であったバルドゥール・フォン・シーラッハの孫だそうです。また、この本の最後にフランス語で「これはリンゴではない」と書いてありますが、何を意味してるのでしょうか。西洋でリンゴといえば、なんとなく「罪」の象徴のような気がしますが、これは読者の想像に任せるということでしょうか?最後までいろいろ想像できる小説でした。(2011.08.02)

ぎんこ

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