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「すばらしい新世界」は天国か地獄か

海外翻訳小説
07 /04 2013
すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)
オルダス ハクスリー Aldous Huxley
4334752721


 いわゆる「ディストピア小説」の代表作ということで読んでみました。新訳も出たし。

これまた有名なオーウェルの「1984」は極度に管理された全体主義国家で、うわーやだなーこんな世界…と誰もが思いますが、「すばらしい新世界」で描かれる世界は、1つ1つの要素は悪くないのです。
人の悩みは古来から親子関係や宗教で起こる戦争、セックス、充たされない人生、退屈…そんなことに尽きます。
ところが「新世界」では「ソーマ」といわれる薬で、未来人たちはガンガン使って嫌な気分を吹き飛ばしてます。人々は結婚・出産・育児から開放されているのでフリーセックスを謳歌し、恥じらうこともありません。労働は完全に階級化され、新生児の段階から「条件付け」されているので、反抗心もないし進路に悩むこともなし。年取ったら苦しむことなく美しいまま死ぬことができるのです。あら、なんだか悪くない。むしろ人類の幸福を突き詰めればこんな世界になるのかもしれません。

この作品が1932年に書かれたということが驚きです。この未来の楽園の一部分は、科学・医療の進化により21世紀に実現しているとも言えます。「ソーマ」はありませんが、一部の薬品は似たような効果があります。頭痛薬でも辛い頭痛から痛みを和らげる効果があるわけで、ある意味医薬品も「ソーマ」ともいえるかもしれません。老化を止めることはできませんが、これからもっとアンチエイジング技術は進むのではないでしょうか。

人間らしさとは何か。苦痛やめんどくさいことがなくなれば人は幸せになれるのか。「すばらしい新世界」の住民は、自由で苦痛のない世界にいるのに、結局やっていることは低次元の娯楽にとどまっています。
技術や医療の進化はもちろん人間を幸福にし、苦痛を取り除いてくれてそれはそれで素晴らしいものですが、それがイコール人間の「幸せ」に直結しているかというとそれは違うのかもしれない。実は苦しみの中に人生の本来の姿があるのかもしれない。そして娯楽や芸術も、悲しみや苦しみがあるからこそ生まれ、愛される。そんなことを考えさせられる皮肉な物語です。(2013.07.02)

ぎんこ

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