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歴史という個人的体験「HHhH」

海外翻訳小説
07 /17 2013
HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)
ローラン・ビネ 高橋 啓
4488016553


いきなりですが司馬遼太郎風にこの本のあらすじ。

「この物語の主人公は、あるいはプラハそのものかもしれないが、ともかくもわれわれは二人の人物のあとを追わなければならない、そのうちの一人はチェコ人クビシュ、もうひとりはスロヴァキア人ガブチークであった。彼らが「金髪の野獣」と恐れられたナチスドイツの幹部、ハイドリヒを暗殺することになるとはまだ知る由もない…」
単に「坂の上の雲」引き写しです、すいません…。

 ゴングール賞を受賞し、本国フランスでも大ヒット、各国でもベストセラーになったという触れ込みで、しかもナチスドイツのお話というのでかなり期待していた本です。「HHhH」というタイトルも強烈。これは「ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる」という文の頭文字をとったものです。

 この本は一応は「小説」なんですが、作者は文中で「小説的な嘘は書きたくない」と言い、事実のみ書いてるそうです。歴史小説だと、歴史の中の人物視点で話が進みますが、この小説では「作者視点」で、作者がすごく出張ってます。作者がどんな美女とお付き合いしていようが読者としてはどうでもいいのですが、作者がいかにこの事件を調べ、思ったのか、小説とはなんなのか、物語を書くための想像はどこまで許されるのか、というメタ的なところがこの本の特徴です。まあ日本で言えば司馬遼太郎みたいなもんです。
視点が作者なんで、とても読みやすく共感しやすいです。それがこの本が売れた理由かもしれません。

 それと、フランスはナチスドイツに屈し、ユダヤ人迫害に協力したという歴史の恥部があります。「サラの鍵」という小説(映画化もされた)でも扱われたヴェル・ディヴ事件は「HHhH」の中でも触れられていますが、この事件はフランス国内でもわりと最近になって存在が明らかになった事件でした。多くのユダヤ人を競技場に非人間的な手段で閉じ込め、強制収容所に送ったという事実はフランス人に大きな影響を与えたと思います。

 そんなわけで、ナチスドイツに対して複雑な思いを持つフランス人作者と読者が、ナチス幹部を暗殺した事件に思いを寄せるのは当然なのでしょう。たぶん。
作者は2人の暗殺者を自分の中のヒーローとして、リアルな彼らの姿を見ようと必死に目を凝らします。そして、自らその世界に入っていこうとしているように見えます。作者が歴史の一部になること、それこそ究極の「フィクション」なのかもしれません。(2013.07.14)



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