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「お菓子とビール」サマセット・モーム

海外翻訳小説
11 /19 2015


「人間の絆」「月と六ペンス」などで有名なイギリスの作家サマセット・モームは、一時期日本の書店から著作を見かけなくなりました。ですが、最近は新訳が多く出版され手にとりやすくなりました。本書も2011年に岩波文庫から出版されたものです。

 印象的なタイトルは、シェイクスピアの「十二夜」などに出てくる言葉で、「人生を楽しくするもの」「人生の愉楽」というような意味合いがあるのだそう。
物語は主人公アシェンデンが、過去に親しかったドリッフィールドという作家との過去を回想するというものですが、ドリッフィールドの妻、ロウジーと主人公の恋愛関係が主軸となっています。ロウジーは魅力的な女性で、まだ子供だったアシェンデンは翻弄されてしまいます。
 文壇(作家や評論家など)に対する痛烈な皮肉は本書の魅力になっていますが、登場人物にはほとんどモデルが存在しており、本が出版された当時も相当問題になったそうです。アシェンデンはもちろんモーム自身、ドリッフィールドはトマス・ハーディではないかと推測されたとか。
中でも一番気の毒だな、と思うのはエルロイ・キアのモデルといわれた評論家でもあったウォルポールという作家です。この小説の中で、エルロイ・キアはかなりけちょんけちょんに書かれてます。「少ない才能を伸ばして使っている」とか、評論家に媚びをうるのがうまくて小説が売れている、などなど散々です。しかも本書を読んだウォルポールは、すぐに自分の事だと気付いたとか。本当に同情しますが、彼の作品は全て忘れ去られても、こうしてモームの作品の中で忘れられる事はないのですから、皮肉といえば皮肉です。

 本書のヒロイン、ロウジーもモデルがいて、それは同性愛傾向のあったモームが唯一本当に愛した女性なんだそうです。設定はかなり変えてあるのですが、モームにとってはかなり思い入れのあるヒロインだったのではないでしょうか。ロウジーは印象に残るヒロインになっていると思います。美人で自由奔放。悲しいことも乗り越えて幸せを掴むロウジーは、あまり幸せとは言えなかったモームの愛した女性を作品の中に生かしたとも言えます。
モームは「どんなに苦い思い出でも、物語に活用すれば忘れられる。自由人と呼べるのは作家だけである」というようなことを書いてますが、ロウジーもそのようにして作品の中に昇華した結果なのだと思います。

 訳者の解説が充実している点も良かったです。モームの人生や本書に出てくるモデルについても詳しく解説してあったり、モームの年表もついており、とても親切な本だと思います。初めてモームを手に取る読者や、昔読んだけど苦手だったなあ、という方にもオススメしたくなる本です。

ぎんこ

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